ドアの向こう

その時、

ガー

エレベーターの開く音がして、
ガラガラと台車を押しながら
さっきの彼がゆっくり歩いてきた。

「お待たせしました。ちょうど上の仕事終わったんで、ついでに一階まで運びますよ。」

同じ色した帽子の下の目から、
目が離せない。

「こいつは…台車に載せますかね。あんたも台車乗ります?」

まっすぐこちらを見ながら問いかけてくる。

「あ…わ、私は大丈夫です。」

「そーですか。じゃ。」

そう言って、
田中さんを簡単に持ち上げて台車に雑に載せて、

エレベーターに乗り込んで
行ってしまった。

それを呆然と見つめていた。


なんて無駄のない動きなんだろう…。

私はこれからどうしよう…。


私も台車に載せてと言えば良かったのかな。

ぼーっとそんな事を考えながら、
座っていると、


ガー


またエレベーターが止まり、

「冗談ですよ。」

そう言って、私を抱き上げた。

お姫様抱っこの形のまま、
エレベーターに乗る。

エレベーターが開いた瞬間に
ドアの向こうの鏡に映る自分の姿を見て
我に返った。

「…え?!あ!!すいません!だ、大丈夫ですから…!」

真っ赤になりテンパる。

「下までですよ。」

何事も無いかのような普通の態度に、
驚きつつも少しホッとする。

その時、彼の匂いがした。

一度やったら抜けだせ無い麻薬をやってしまったかのように、
頭の芯からクラクラした。

とてつもなくいい匂い。

なんなんだろう。これは。


そう思った時には一階に着いており、

あっさり地面へ降ろされた。


そのまま、タクシーを呼び止め、
無理矢理起こした田中さんもタクシーに乗せ、

私も別のタクシーに荷物のように運びこむと、

「あとは自分で帰ってください。」

と言って、青い車へと向かっていった。


最後にまたこちらを振り返る事は無く、

私は見えなくなるまで、
タクシーの中から青い車を見ていた。