「お母さん、元気かなぁ…」


ふと口からこぼれた呟きにはっとする頃には時すでに遅し。

訝しげな原田くんの視線を感じた。


「………マザコンですか?」


……………。
そういうことにしよう。


「うん」


それ以上は何も聞いてこなくて、授業も終わり、私は席を離れた。

まぁ、次は移動教室だから。


「コハル?」

「ん?」

「原田くんに何か言われた?」

「マザコン?って聞かれた」

「…間違ってはないわね」

「うん」

「ねぇ、どこいくの?」

「生物室?」

「まったく…」


私は紗英に腕を引かれた。
どうやら、生物室はこっち方向じゃなかったみたい。

仕方ないよ。
生物をとったのは二年になってからだし、まだ一ヶ月しか経ってないもん。


「あんた、ほんと方向音痴よね」

「うっ、お母さんゆずりだもん」

「必ず遺伝するとは限らないでしょ」


現に私は違うし、と紗英は続けた。
…まぁ、そうだけど。

口先を尖らせて、生物室まで紗英に手を引かれながら向かった。


そんな私たちの会話を聞いて、首を傾げてる人がいるなんて。
私たちが気づくはずもないけど。