ー文久3年・春ー
何処か遠くから鳴る雷の音。
咲き誇る桜に不釣り合いなその音に腕組みをしながら耳を傾ける。
「珍しいですね、土方さんがそんなところで佇んでるなんて。」
「ああ、総司か。」
まだ何処か幼さの残る顔立ちの青年【沖田総司】が【土方歳三】の横へと立つ。
「春雷だな。」
「あの素晴らしい句集に春雷の句も加えるつもりですか?」
「なっ、総司!てめえ!」
土方の眉間に深い皺が寄る。
「あはは、怖い顔ですね。」
そんなやり取りを他所に春雷はその音を大きくする。
「今にも落ちそうな勢いじゃねえか。」
「こんなに酷い春雷は今まで無かったですね。」
二人は音の鳴る方を見つめる。
その時、バキバキという轟音が近くの竹林に落ちた。
「あー、落ちましたね。」
「何呑気な事言ってやがる。火事にでもなったら大事じゃねえか。行くぞ。」
「僕もですか?」
「当たり前だろ!」
二人は竹林に向かい走り出した。



