「はぁ、はぁ、はぁ…………」


足元の悪い竹林をサンダルで走り続けた叶は5分と経たないうちに体力の限界に近付いていた。


「はぁぁ~もうムリ。」


子猫をそっと下ろし、その場にしゃがみ込む。

足には小さな擦り傷が無数にできていた。



「体力無さすぎる……足、痛いし……」


ポツリと呟くと辺りを見回す。

先の見えない竹林。

夕暮れになってきた空は繁った葉で余計に薄暗く感じた。


「春……」


寒さを感じてきた叶は露出した腕を擦る。


「夏だったのに……これは夢のはずなのに…………夢の中でこれは夢だって思うものなの?」


俄にこれは夢ではないのだと思い始める。


「だとしたら……ここはどこ?私はどうしちゃったの?」


どれだけしゃがみ込んでいたのか、辺りはすっかり暗くなっていた。

闇に包まれた竹林は恐怖心を煽る。

不意に子猫の姿が見えなくなっているのに気付く。


「クロネコちゃん?どこ?」


手探りで子猫を探す。


「ニャー」

「クロネコちゃん?……く、暗いし黒いし見えない……」


鳴き声のする方へ恐る恐る歩く。

すると足元に擦り寄る感覚。


「いた!よかった!」


子猫を抱き上げホッとすると、ガサッと草を掻き分ける音が響いた。

叶はビクッとし、身構える。

暗闇に慣れてきた目が捉えたのは、先程の二人とは明らかに違う、見るからに危険だと分かる風貌の男。


「ほぉ、こんな処に女子とは。」


薄気味悪い笑みを浮かべ、品定めするかの如く叶を見る。

逃げなければと頭では理解していても体が硬直して動かない。

ジリジリと近付く男をただ目を見開いて立ち尽くす。