中から水の音は聞こえない。
「海渡、波流、なんか、怖い。」
なんだかわからないこの恐怖感。
ヒヤッとする。ゾクっとする。
「なに?見学?」
いきなり後ろから声をかけられ三人でびくぅっとする。
「は、はい。」
「クラスと名前この紙に書いて。」
そう言って紙を渡されて海渡、波流、私の順に名前を書く。
航ちゃんに言われたとおり、偽名で。
「佐藤司くんに、当麻那月ちゃん?それから、間宮、愛衣華(あいか)?」
「ういかです。」
偽名を使う理由なんて全然わかんないけど、航ちゃんも、海渡も、波流も、そうしろっていうから、いとこの名前を使った。
「あの、那月は、男です。」
そう言って波流が手を上げる。
「そーなんだ。で、見ての通りだけど、どうする?」
見ての通りと言われても何もわからない。
何をしてるのかさえ。
「俺は、シンクロ興味ないんだよね。他の部員は大抵他の場所で練習してる。それでも下手くそだよ。ここは、俺が可愛い他校の女の子たちと交流する場。だから、シンクロやりたいなら他所に行ってくれ。愛衣華ちゃんは、俺と遊んでく?」
ニコリと効果音がつきそうな綺麗な笑みだった。でも、私にはイラつきしか覚えない。真剣じゃない人は嫌いだから。
私は、そいつに近づいて、ビンタをした、
ビンタくらいならいい。
私は往復ビンタを食らわせた。
「ちょ、愛衣華!」
自分を偽るなんていやだ。
私は私。
「もし文句があるなら、1年B組岬深海に、直接お一人でいらしてください。」
私はそう言って、プールを出た。
慌てて、海渡たちも追ってくる。