飛べないイルカ


ずっと、ただ、航ちゃんの練習を見てた。

何もせずにただ、ぼーっと。

…航ちゃん…

「なんで、飛ばないの?」

水中からジャンプしない。

ずっと、くるくる回る技とか、足だけ出す技とかばっかり。


「なんで、飛ばないの?」

航ちゃんに近づいて聞く。

航ちゃんが飛ばない理由が知りたい。

なんで飛ばないのか。


「…今日は飛ばないだけだ。」

…前は、毎日飛んでたのに、なんでそんなに飛ぶのと聞かれるくらい飛んでいたのに。

「飛んでるところ、みたいな。」

「…見てどうするんだよ。まず、誰が得するんだよ。」

「もちろん、深海ちゃんが、得するんだろ。」

柴田先輩が、私にウィンクをして微笑む。

それに曖昧に答えて、

「航ちゃんの、飛んでるのを見るの好き。」

そう一言だけ告げた。