「深海。」
「航ちゃん…。」
私は一人、ぼーっとしていた。
おばさんは、私がお皿を運ぶと皿を必ず5枚割ることを知っていて、やらせない。
料理ができないわけじゃない。
でも、おばさんにはおばさんの味がある。
「深海、どうして、水瀬入った?お前の学力なら、湧泉高校も、余裕だっただろ?」
確かにその通りだ。
自惚れているわけではないけど、県内の模試では大抵一位。それは、全国模試も当てはまる。
「航ちゃんも、なんで?」
湧泉じゃなくても、水瀬よりは確実に高い高校は3校ある。
「湧泉は、落ちた。氷野塚と、舟月と、南高は面倒で受けなかった。」
湧泉しか、行く気はなかったんだ…。
さすが航ちゃんというか、なんというか。
「私は、水瀬に航ちゃんがいたから。それから、男子シンクロ部があるから。」
航ちゃんの、シンクロしてる姿が見たいから。
だけど…。
今の航ちゃんは、バスケ部だもんね。
「俺が入学した時にはシンクロ部、ダメだった。基本の動作ができてないとか、そんなんじゃない。マジでダメだ。部活としてダメだ。シンクロ部じゃない。」
…どういうことだろう…?
「もし、シンクロ部見に行くなら、海渡か、波流を連れてけ。じゃないと、深海が、危ない。」
よくわからないけど、分かったって頷く。
でも、波流で大丈夫なの?
「大切な妹分に何かあったら、俺がしめられるからな。」
やっぱり、航ちゃんにとっては、私は妹なんだね。
航ちゃんは、かっこいいし、背も高いし、大人っぽいし、そんな航ちゃんが、ちっちゃくて童顔で、背も低くて可愛くもない私を女の子として見てくれるわけないよね……。
「お邪魔しまーす。」
「海渡と、波流が戻ってきたっぽいな。」
私は航ちゃんの言葉に頷く。


