泡を吹いた谷口は鬼女に片手で引きずられて運ばれた。

鬼女
「こいつ美女を目の前に泡吹きよってからに、なんちゅー失礼なやっちゃ」
 
 社の前に寝かされた谷口は唸っている。

荒木
「僕達食べられるんですか?」

小山
「信じられない」
 
 荒木は恐怖のあまり泣いているようだったが、鬼の親子は美しく私はあまり危機感を抱かなかった。
 
 確かにどうしようもない現実を目の前していたが、不思議と知りたいという欲求の方が強かった。

鬼女
「うちはアヤメ、この子はタタミってゆーねん」

小山
「畳?」

アヤメ
「うちにとって安らぎやねん。
 
 畳も安らぐやろ?」

小山
「アヤメさんって、その…鬼なんですか?」

アヤメ
「そやで、鬼やで!

 てか良くここ見つけたな?
 
 あんたやろ人間のお嬢ちゃん?」

小山
「小さい頃から気になってまして」

アヤメ
「よう覗いてたもんなー」

小山
「知ってるんですか?」

アヤメ
「こっちからは見れんねん。

 普通の人間は気にならんねんけどな、あんた霊感強いで」

タタミ
「固め菓子もっと頂戴!」
 
 荒木は鞄からクッキーの大袋を出し恐々と投げた。

アヤメ
「そな、犬みたい扱いで出しなや、食べてまうで!

 この低級!」

荒木
「すいません、すいません、すいません」
 
 荒木は号泣した。

アヤメ
「もういっちょの低級兄ちゃんも起きとんにゃろがい!」
 
 泡をいていた谷口はムクリと起きた。

谷口
「見破られていたとは、本物なのか?」
 
 疑いようのない状況でもこの男の目は死んでいなかった。

アヤメ
「ようこそ、西大路鬼社へ」

小山
「なんですか?それ」

アヤメ
「うちら元々ここら荒らし回ってた鬼なんやけど知らん?」

谷口
「やっぱりな、俺の言った通りだろ?」

荒木
「じゃあここに封じ込められてたんですか?」
 
 荒木の発言に鬼の親子は毛を逆立てた。
 
 辺りの空気が一瞬で張り詰めた。

アヤメ
「せや、せやねん人間にな」
 
 どうやら怒りを買ったようだった。

谷口
「ゼロよ、ゼロよ」
 
 谷口はぶつぶつ言っていた。

小山
「そうだ!私、コロッケパン持ってるんですけど」
 
 私は自信満々に校内パン屋の人気No.1である惣菜パンを取り出した。

荒木
「男子には中々巡って来ないあのパンか!」
 
 ポテトサラダとコロッケに絶妙な酸味の効いたソース。
 
 この繊細な味のコロッケパンは男子には勿体ないと高校のパン屋が女性優先で捌いていていた。

タタミ
「母ちゃんまた美味しいやつちゃう?」
  
 アヤメの殺気は収まり、タタミを制止ながら私からパンを受け取った。

アヤメ
「何だかツルツルしてる素敵なー」

谷口
「それは梱包です」
 
 アヤメは「ほほう」とビニールを剥がし噛みついた。
 
 瞬間的に谷口と荒木が見とれる程の笑顔で笑った。

タタミ
「うちも、うちにもちょーだい」

小山
「へへっ、どうでやしょう?

 お口に会いますか?」

アヤメ
「美味しい!これ人間のどこの部分?」
 
 笑いながら指を舐める鬼に三人は後退りした。