三人は眠りについたが、すぐに目を覚ます事になった。
 
 聞こえるのだあの歌が…

小山
「起きて!聞こえるの」

谷口「むー」
荒木「もういいから寝かせて」
 
 眠気に勝てない二人に私は焦って思わず平手打ちした。

谷口「いてっ」
荒木「やめろよ!」
小山「いいから聞いて」
 
 怒る二人も耳を凝らして窓の外を伺った。
 
 何か唸るような、それでいて陽気な声が聞こえる。

小山
「決まって25日、つまり今日いつもこれが聞こえるの」

荒木
「確かに俺にも聞こえる」

 恐怖で目が醒めた荒木は事の重大さに気づいた。

谷口
「ゼロ、窓から覗いて見ろ」
 
 私の部屋がある二階からそっと窓から外を覗きこむ荒木。
 
 しかしその直後に玄関の開く音がした。

小山
「入ってきた?」

荒木
「外には誰もいない!」

谷口
「お母さまが危ない!行くぞ」
 
 谷口が叫んだ瞬間家の中にあの歌が聞こえる。
 
 一瞬怯んだが、母が心配な三人は意を決して階段を駆け降りた。
 
 階段を降りた右手に玄関が見える。
 
 そこにはスーツ姿の父がいた。
 
 熱くなっている二人はそれを私の父と認識せずに身構えた。
 
 (非常に言いずらい)

 その時母が奥の廊下から現れた。


「あら、やだ恥ずかしい所を見られちゃったわねー。
 
 今日給料日だから…お父さんの唯一酔いつぶれても良い日なのよ」

 二人の白けた目線が痛い


「大黒柱のお帰りじゃー、わっしょい、わっしょい」
 
 ご機嫌な父は倒れながら小躍りしている。


「わっしょい、わっしょい、よいよいよい」
 
 母は片手で父を引きずり奥の台所に運んだ。

谷口
「妖怪給料日のパパ」

荒木
「怪奇、自我を失ったスーツ男」

小山
「悪かったって」
 
 恥ずかしかったが安心した。
 
 しかしその時急に耳鳴りが私を襲った。
 
 廊下の板の間が激しく音を立てる。
 
 すかさず家のチャイムが鳴り…

 
「ガンガンガン!ドンドンドン!」

 激しく扉を叩く音に、この世の物とは思えない鼻息がドアから聞こえた。

「うるせーぞ!」
 
 父の罵声でドアの騒音は収まった。