マスターは急に入ってきた老婆に怒られている。

老婆
「目無し猿が！何で人なんぞ連れ込んだ！」

マスター
「いや、鬼の匂いがしたんでい」

老婆
「くうてしまうか？

　若いし旨かろうや、のー？」

　果てしなくヤバいと思った三人の中で谷口が椅子から立ち上がろうとした。

　その刹那に老婆が目に止まらぬスピードで谷口の頭をカウンターに押さえつけた。

谷口
「ぐあっ」

荒木
「ジェット婆さんだ！」

マスター
「待った。待った。

　あの西大路の女悪鬼親子の知り合いなんだい！」

老婆
「あいつらは封じられた筈だろ？」

谷口
「痛い痛い！」
　
　谷口の頭を握るジェット婆さんに手に力が込められた。

小山
「友達です！」

老婆
「友達？あの百鬼夜行からも外された悪たれの？」

荒木
「ジェットばばあなんて新参妖怪だろ！

　先輩に逆らうのか？」

老婆
「生意気だね！今ここで殺したら分かりゃしないさ、そうだろマスター？」

谷口
「いてててて、馬鹿！ゼロ！」

小山
「定期的に顔を出すように言われてるんです！
　
　出さなかったら不味い事になりますよ！」

老婆
「くそっ手下か」
　
　ジェット婆さんは唾を吐きながら谷口から手を離した。

老婆
「言いつけるのかい？」

谷口
「あー痛かった」

小山
「危害を加えないなら言いません」

老婆
「そもそも、小娘、こんな夜行の巣に入る人間が悪いんだ。
　
　見つかる場所に作って、通した猿もな！」

マスター
「普通の人間は通りすぎるだけなんだけどな見えないからしょうがない、それに匂いが」

荒木
「これのお陰かな」
　
　荒木はミサンガに編み込んだアヤネさんの毛を見せた。

老婆
「髪だけで妖気を出すとはな、噂は伊達じゃないようだ」

マスター
「しかし娘さん、人の癖にえらい大物と知り合ったもんだない」

小山
「そんなに怖くは見えなかったんですけど」

マスター
「見た目や言動で脅す必要が無いからさ、まあ座りなよ話してやるから。
　
　コーヒーも冷める」

老婆
「あたしゃビール」

谷口
「えらい婆さんにあったもんだな」

　老婆は私達に並びカウンターに並び座った。
　
　興奮から覚めたようで先程とはうってかわって本当の老婆に見えた。

老婆
「悪かったよ、言わないでくれよ？」

荒木
「ていうか、このコーヒーは旨い！」
　
　マスターはにやけ、谷口は頬を擦り、私は今の出来事でコーヒーの味が分からなかくなっていた。