車を止めるのであろうスペースが無いこの住宅跡には誰も来ないはずなのに散った木の葉も蜘蛛の巣もなかった。
 
 通路を進んでいくと少し、ほんの僅かに灯りが見えた。
 
 外からでは影で分からなかったが向かって右側の住宅の壁が途中で途切れて地下へと続く階段が隠されていたのだ。
 
 地下へ続く階段の先にランプが灯っている。

荒木
「ここも当たりじゃない?」

谷口
「明らかに怪しいな、政府の秘密施設かも」

小山
「私ここで待ってる。何かあったら助けを呼ぶから行ってきて」

谷口
「ずるいぞ!それに圏外だぞここ」

荒木
「ただの山の管理小屋みたいなもんじゃない?」

谷口
「殺人鬼の隠れ家だったらどうするよ」

小山
「ランプがあるだけかも、ちょっと行ってみてよ」
 
 私に促されて荒木は音を立てないようにじわじわ階段を降りていった。
 
 度胸があるのか、馬鹿なのか、ただ正直少し荒木を見直した。
 
 谷口がそれを懐中電灯で照らし援護した。
 
 私は何時でも逃げられるように身構える。
 
 荒木の先に木製の扉が見えた。

 荒木は暫くするとゆっくり戻ってきた。

谷口
「おいっどうっだった?」

荒木
「BAR井戸端って書いてあった」

小山
「BAR?何でこんな所に?」

谷口
「上流階級しか知らない隠れ家的BARかな?

荒木
「けど中からは何も音がしなかった」

 その時!私達が入って来た通路から差し込む光が遮られたのに気づいた。
 
 ビクッとして三人はその影の正体を見るとそこには……大きな猿?らしものが立っていたのだ。

 そう、立っている!

 日本足で!

 しかもでかい!
 
 逃げ場を失い、見たこともない生き物のせいで私達は息もまともにできなかった。
 
 罠だったんだと思った瞬間その生き物が人の言葉を話し出した。

妖怪
「まだ準備中なんだけど」

荒木「喋った」
谷口「喋ったな」
小山「着ぐるみ?」

妖怪
「うーん、妖怪?人間の匂いにほんの微かに鬼の妖気の香りがするな。

 人から変化した鬼の三兄弟か?」
 
 どうもこの妖怪は目が見えないらしく目をつむっている。

妖怪
「まあ久しぶりの新規客だ今開けてやるよ」
 
 そういうと妖怪は私達を飛び越え階段を降りて扉を開けて入っていった。

小山「どうする?」
谷口「今は考えられない」
荒木「あいつ臭いよな?」

小山
「ここで逃げたら追ってきそうじゃない?」

谷口
「確かに、絶対捕まるよ。
 
 人がいるところまではまだ先なんだろう?」

荒木
「興味はかなりあるよね?」
 
 仕方ないと諦め、好奇心を武器に私達はBAR井戸端へ入店した。