…蒼くん、蒼くん。
ポツ…ポツ…
その時、少しずつ、雨が降り始めた。
「最悪っ…。」
幸い、ここは夜人が少ない住宅地。
ほとんどの家に灯りがともっている。
…着物姿は、目立つから。
「雨、強くなっちゃったよ。」
いつの間にか ザアザア とふる雨。
あたしはそっと、そばのボロアパートの
階段下へと身を入れた。
そこは雨の当たらない唯一の場所だった。
「蒼くんの家、このへんだったりして」
距離的にはこのへんだろう。
けど、方角がちがうかもしれない。
着ていた着物はすっかり濡れていて、めくっていたからか、足のほうはさらに寒い。