妙なもんに出くわしてへとへとになって帰れば、行けと言った割りには親父が居なかった事を「あらそう。」で流された。
普段通りの苦笑には見えない艶の穏やかな笑みにどっと疲れがくる。

「大丈夫?水季。」

「…、艶、俺の飯食べとけ。寝る。」

「うん、良いけど。…お母様に絞られるよ。」

こそこそと耳元で囁かれた言葉に疲れは増したが、知ったことか。
小さく首肯し、構わないと告げると咎められる前に部屋へ戻る。

ドアを閉めるまで見送ると、艶は首を傾げ呟く。

「ありゃ。よっぽど疲れたんだねえ……何に、遭ったのかな。」

暗い廊下の向こうに位置する水季の部屋から視線は逸らさずに、にこりと心配そうな声には似つかわしくない笑みを浮かべる。
暫くそうして笑んでいたが、台所から水季の母に呼ばれれば妖しさは為りを潜め、楽しげに台所へと消えた。