辺りを見回したが人が居そうな気配はしない。
諦めて、山中へ入ってみるべきか。
ああ、めんどくせえ。

辛うじてある道らしき所を進もうと草木を掻き分けて山へ踏み込む。
瞬間、黒い羽根が舞った。

「っ!!?」

気が付いたときには上から人が降ってきて、俺は受け止めるように押し潰されていた。
もしかしたら親父か?と苛立ちのまま乗っかっている人を見る。

黒い、翼。人らしくない耳に、白目の部分が黒くて、瞳が…山吹色。

呆然と見詰める俺の上から軽やかに立ち上がったその人間じゃない、男は無表情のまま、此方へと手を出す。

「すまんな、童。無事か。」

「え、…ああ。大丈夫だ、」

反射的に出された手を掴むと、ひょいと立ち上がらせられる。
妙に身長が高い。

「しかし、此処は私のような山伏でない限りはあまり人が来ない地の筈だ。帰らなくて良いのか、童。」

「どう見てもお前山伏じゃないだろ…此処が避けられてんのは妖怪が居るから、か…くそっ、親父が帰ってくる訳だな。」

ぶちぶちと溢せば、不思議そうに首を傾げる。
山伏、黒い羽根。こいつ、なんの妖怪なんだ?

「妙なことを言う童だ、私はただの山伏だぞ。…して、親父殿が此処に居ると?」

「そうらしいが、俺も詳しくは知らねえ。言われて来ただけだからな。」

ばさり、羽根が舞う。やっぱり動くんだな、とぼんやりと舞う羽根を見つめる。

「それは、変だ。暫く、此処に人は来ていない。」