手を振る艶に見送られ、地図を頼りに歩き出す。
といっても、行けと指定された場所はこの小さな町じゃ誰も近付かないものの、知らない人はいないようなところだ。
憂鬱さも不機嫌さも隠すことはなく、黙々と足を進める。
大した距離はないが、山道を歩くかもしれないとなればそれなりに急がなくてはならない。

それに、早く行って早く帰りたい。


俺の父親はそれはそれは妖怪が好きだ。妖怪オタクとも専門家とも言えるレベルで。
だからかは知らないが、俺が物心つく頃にはもう既に、妖怪学も楽しかったがやはり妖怪に会いたいなどと言って日本中の妖怪を追っかけ回していて、ろくに家に居なかった。
そんな父親が帰ってきたところで、だ。話すことも何もない。

なんて考えていたら、いつの間にか指定の場所に近付いていた。
ぱっと見は普通の山だ。古くさい言い伝えが幾つか残っているだけの。

「で、親父は何処にいるんだか…」