俺は所謂、“可愛くない子供”だった。
それは物心つく前から周りの大人が浴びせてきた言葉で、この歳にもなれば言われなくても分かる。

自分がどれだけ可愛くなく、愛想もなく、口が悪いか。
口が悪くなったのは主に散々言ってきた大人たちのせいだが、まあ、それも治しようもないところまで至らせたのは俺自身に違いない。

「あれ、水季だ。」

だからといって、俺は孤独でも何でもない。
母ちゃんは強かったし、近所にそれはそれは構いたがりの兄のような人が居たからだ。

「水季?」

「う、わ!艶!」

古里 艶(こり えん)
近所に住む大学生で、俺の兄を自称してる人だ。容姿端麗、文武両道。それはそれはモテるし、人との関わりもそつなくこなす。
俺とは真反対の人。この人だけは昔から何かと構ってきて、俺の態度も咎めない。

「どうしたの、そんな仏頂面で。」

「うっせ、いつもだろ。」

この笑顔に化かされている気もするし、何処か救われている気もするから腹立たしい。

「…艶こそ、どうしたんだよ。学校とか、トモダチは?今日はぞろぞろ連れてねぇの?」

「んー、今日はね、水季に伝言。」

「はぁ?」

「お父さんが帰ってきてるから、ちょっと山までいってきなさーいって、お母さまが。」

にっこり笑って、地図を出す。
渋々受け取り見上げれば、また、笑う。
拒否権はないし、多分、行かなければ面倒な事になるんだろう。

「今更…あの妖怪オタクめ、何しに帰ってきやがった。」

唯一の抵抗に悪態をつけば、宥めるように撫でられた。から、仕方ない。