怒ればいいのか、
笑い飛ばせばいいのか、
一瞬だけ考えたけれど、そのどちらもすることはできなかった。する価値もないだろう。
早く離れよう。そう思って神崎の手を引いた。けれど神崎は動こうとはしなかった。
……それどころか、
「気持ち悪くなんか、ない」
神崎はまっすぐに顔を上げ、そいつに向かってそう言った。
「夏目先輩の眼は、とても綺麗です」
その横顔は、少しだけ泣いてるように見えた。
掴んだ右手も、
喉も、声も震えていていたから……。
「いいよ、神崎」
「……っ、でもっ」
「いいから」
俺はそれだけ言って彼女の手を引いた。
「じゃあな」
そいつらの顔も見ずにそれだけ言って、人混みに紛れるようにその場から離れた。
「……神崎、泣くなって」
「だって、先輩の、眼、とても綺麗なのに……、わたし、悔しくて……っ」
「うん。言い返してくれて、ありがとう」
握った手が熱い。
ぎゅうぎゅうに握られて、少し痛い。
でも、それ以上に
なんだかとても、嬉しかった。

