月がとっても




「あ、着いたみたいだな」


ちょうちんの灯が見えてきた。
この灯を辿ってずっと歩いていくと、神社へ辿り着く。

その道中には賑やかな屋台が並んでいる。



「なにか食べるか?」

「えっと……」


尋ねると、神崎は困ったように顔を俯けた。


「どうした?食欲ない?」

「ちがいます、けど」


「けど?」

「浴衣、汚しちゃったらどうしようって……。私、鈍臭いので……」

「ああ」


言われて納得する。
沙織さんの借り物だからか。真面目な神崎らしい。


こぼさず、汚さずで食べられるものか……。

なにかあっただろうか、ぐるりと屋台を見渡してみる。


そうして見つけたのは……




「ベビーカステラ! 私、大好きです!」


ベビーカステラを買ってあげると神崎は途端に明るい顔をした。

嬉しそうに小さなカステラ菓子を頬張る様子に見ていてこちらも嬉しくなった。






……そんな時に、


「あれ、夏目じゃん?」

すべてをぶち壊すかのような声が俺を呼んだ。