月がとっても



「神崎はさ、まだ兄さんとは仲違いしたままなのか?」

思わずそう問いかけると、握った神崎の左手が微かに強張った。


「……そう、ですね」

「話してみようとか思ったことはないのか?」


どこか諦めた風に答えた神崎に、俺は更に尋ねてみる。


「案外、映画とか音楽とか、共通の話題があれば話せるんじゃないか?」


朔の描いたスケッチを見た時、神崎と兄の神崎亮佑はあまり似ていないと思った。けれど、朔から訊いた話で、神崎亮佑も神崎と同じように本や映画が好きなのだと言っていた。

だから、なにかきっかけさえあればすぐにまた話せるんじゃないかと、そう思った。



俺の言葉に神崎は曖昧に笑った。

下駄がカランと弱々しく鳴る。



「……私は、きっと、お兄ちゃんにこれ以上嫌われるのが怖いんだと思います」


ぎゅっと手のひらに力が篭る。



それはどうだろう。

兄妹なんて簡単に縁が切れるわけじゃない。


たとえ、どんなに嫌われたって。

遠く離れてしまったって。



そう思ったけど口には出せない。
俺が言っても仕方ないことだから。


神崎が変わらないと……。