その翌日。図書室に空調設備だかなんだかの業者が入ることになって、図書室への入室が一日禁止となった。

朝のホームルームで担任からその連絡を聞いた時、思い出したのはあの子のことだった。



神崎は、図書委員の当番以外の日でも放課後は図書室にいることが多い。


そしていつも下校の放送が流れるまで、ずっと一番奥の席に座って本を読んでいる。気付いた頃からずっとそうだ。


その理由を聞いたことはないけれど、家に帰るのが嫌なのだろうとなんとなくそう感じた。



「神崎、放課後ちょっと付き合ってくれないか」


休み時間の教室移動の最中。
見つけた神崎にそう声を掛けた。


突然のことで神崎は驚いていたみたいだし、俺も自分でもなんでそんなことを言ったのかはよくわからない。

放課後の居場所を無くした神崎を気の毒に思ったせいなのかもしれない。


その時は彼女の返事を聞かなかったけれど、放課後になると神崎は俺の教室の近くに佇んでいた。


違う学年の教室に入るのは躊躇ったのか、神崎は控えめに廊下の隅に立って不安げな顔をしていた。


俺が声を掛けると、少しほっとしたような顔をして「なにかご用事ですか」と、相変わらずの小さい声で尋ねる。