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「今夜、近くの神社でお祭りがありますから、望さん連れっていっておやりなさいね。

神崎さんには浴衣お出ししときますから」


沙織さんがお茶を出してくれた時に言ったその一言で、神崎のギターの練習はまた今度となった。

今朝、沙織さんに神崎を連れてこいと言われた理由はこれだったのかと納得する。




浴衣を直すために神崎は沙織さんに連れていかれ、部屋には俺一人だけが残された。

神崎が居なくなって一気にすることが無くなった。ごろりと床に寝そべり、眼を閉じる。



「私のお古でごめんなさいね」

「いいえ。でも、本当に良いんですか、こんなに綺麗な浴衣をお借りしてしまって……」

「いいのよ、私が着せたいだけですから」


隣の部屋からそんな会話が聞こえる。



「……そうだ。丁度ね、澪さんに似合いそうな柄の反物があるの。仕立ててあげますから、来年はそれを着てくださいね」


「そんな、ご迷惑じゃ」


「いいのよ。ね、約束」


「……はい」




眠りに落ちる最中、2人の会話を聞いてそっと考える。



"来年の夏"

来年、俺は高校生か……。

中学生で居られる時間はもう少ししかないというのに、まるきり実感が湧かない。結局、進路希望もまだ曖昧で……。


未来の俺はどうなっているのだろう。まったく想像出来ない。


けれど、それでも、

(来年の夏も、神崎とまた一緒に居れたらいいのに……)


そんなことを思いながら意識は遠退いていった。