夏休みの前日。
終業式が終わり、帰宅する前に音楽室に寄ってみた。置いたままにしていたギターを持って帰るために。
それに、今日は図書委員の仕事もないため、音楽室には神崎が居るかもしれないとほんの少しだけ思ったから。
……そしたら案の定。
「あ、夏目先輩。お疲れさまです」
「ああ」
音楽室にはギターを抱える神崎の姿があった。
「……やっぱり、」
神崎は俺の顔を見るなり、ひとりごとの様にくすりと笑みを零した。
「ん?」
「先輩、来るかなって思ってました」
そう言って神崎は弦を鳴らしながら嬉しそうに笑う。読まれていたのは俺の方かと、そう思ってつられて笑った。
「暇なら、昼からうち来るか?ギター弾きに」
「いいんですか?」
「うん。なんか沙織さんができれば来て欲しいって」
「それならぜひ」
そうして駅まで一緒に下校して別れた。
本当はこのまま家に行ってもよかったけれど、それだと神崎が昼飯を遠慮するだろうと思って誘わなかった。
お昼過ぎ、1時ぴったりに神崎が家に来た。
「これ、母からです」
「なに?」
「いつもお世話になっていますって」
渡されたのは、水ようかんの入った紙袋。
少し意外だった。
神崎が家族に俺のことを話していることが。
だって、俺は年上で、ましてや男で。
なにもないとは言え、不審に思われても不思議じゃない。
そのことを神崎に聞いてみると、
「お母さんにだけ話しました。とても仲良くしてくれる先輩がいるって」と答えてくれた。
「俺が男ってことは?」
「聞かれなかったので」
そう言って神崎は少しだけ悪戯っぽく笑う。
言ってないのか、なるほど……。
「神崎も悪くなったな」
そう言って俺も微かに笑った。