月がとっても




「でも、ありがとう。とっても嬉しいな……。

私ね、将来はラジオDJになるのが夢だから」


黒沢が内緒話でもするように、こっそりとそう俺に話してくれた。



(……だから放送委員なのか)

心の中でそう呟く。


放送委員なのも、音楽に詳しいのも、すべては彼女の夢の一部なのだろう。……想像して、とてもしっくりきた。



「なれると思うよ、黒沢なら」


「ありがとう……。

ね、夏目君は将来の夢って持ってる?」


「いや、まだ決まってない。進路希望だってまだ書いてないし……」



先日HRで配られた進路希望調査の用紙は、手紙と同じようにまだ真っ白なまま。遠い未来のことが、今の俺には漠然とし過ぎてなにも思いつかない。



「夏目君なら、なんにでもなれそうね」


黒沢がそんなことを言う。

「なんにでもはなれないよ」と俺が言い返そうとする前に彼女は席を立った。



すると、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。


時間ぴったり。
時計なんか見ていなかったはずなのに……。


きっと黒沢なら本当に夢を叶えるのだろうと、少しだけ彼女の未来を想像した。