月がとっても

◆◇◆


週明けの授業は、期末試験の返却とその答え合わせ。それが終わると、残り時間は殆ど自習だ。


夏休みを目前にして生徒は落ち着きがないし、先生もこんな状態でわざわざ中途半端に授業を進める気がないのだろう……。


少し騒ついた教室のなかで、昨日の本の続きを読んでいた。頭の隅ではあの手紙の文章も考える。


「夏目君、何読んでるの?」

そう声を掛けられた。顔を上げると、いつの間にか黒沢が俺の前に立っていた。休み時間より騒がしい教室のなかでも黒沢の声は不思議とよく耳に届く。


俺は静かに本を閉じて、その表紙を見せる。

特徴的なダリの絵に、黒沢は少し驚いたようだった。


「意外……。夏目君って美術好きなの?」

「いや。……ただ、ダリの友人のロルカって詩人が好きなんだ」

「……ロルカ? アンダルシアの?」

「あ、知ってるのか」


立ったままの黒沢に「座ったら?」と、空いている横の席を促すと、彼女は静かに椅子に腰掛けた。 


「サルバドール・ダリへ捧げた詩を、ラジオで聴いたことがあるわ。とても情熱的で……」


情熱的な詩。

けれど、叙情性を孕んだ詩。


そんな風に黒沢は、ロルカの詩についてゆっくりと語った。



「……綺麗だな」

「なにが?」

「黒沢の声」


思わずそう零すと、黒沢はかぁっと顔を赤くさせた。言ってしまってから、自分でもなにを言ってるんだろうと俺も少し恥ずかしくなった。



「なに、急に……」

「……悪い。なんかそう思った。」


けれども実際、透き通るような綺麗な彼女の声は、ロルカの話によく栄えた。



「夏目君って、天然たらし?」

なんて黒沢が眼鏡を掛け直しながらそんなことを言う。