月がとっても




「だから、ねぇお願い。望だけが頼りなんだ」


朔が泣きそうな顔をして俺に縋り付く。


迫る顔を無言で引きはがす。それから溜め息を一つ零す。



「仕方ないな……」


言いながら掴んだままの朔の頭を乱暴に撫でた。

どうにも俺は朔にはとことん甘いらしい。



「……うちの学校の美術の課題、結構多いぞ」

「どれくらい?」

「環境保護なんとかのポスターと、ドローイングの抽象画。……あと自主制作のなんとか」

「楽勝!」



朔が得意気に笑う。

これは逆に俺の方が得をしたかもと、こっそり思った。



「で?その作文てどんなのこと書けばいいんだ?」


「……えっとね、"手紙"」


「手紙?」


「そう。手紙、レター」


Letterと朔の指が空中に綴る。



「手紙を書くんだ、原稿用紙に。……誰宛でもいい。用紙も三枚以上なら何枚使っても」


「……それ、結構難しくないか?」


「でしょ」


言い返すと朔もそう苦笑いをした。


あまりにも抽象的な課題に頭をひねる。頭の良い学校ってこんな難しいことやっているのかと思って朔が少し気の毒に思えた。

それが朔にも伝わったのか、朔は「国語の先生だけね。ちょっと変わってるんだ」と苦笑いしながらそう言った。


「いつも参考書より本を読めとか言うし、授業中に生徒がメールしてたら怒るくせに、メモに書いた手紙は回してても怒らないんだ。むしろ褒めるっていうか……」

「ふーん」

確かに変わった先生だ。渡されたサラの原稿用紙をペラペラとめくりながら考える。



(手紙……手紙ね……)


そう言えば、生まれてこの方そういった類の文章は書いたことがない気がする。