月がとっても

◆◇◆


窓を閉め切って、光を無くした部屋いっぱいに星を散らした。


「きれい」


天井に流れる天の川を眺め、ひとりごとの様に神崎がそう漏らした。とりあえずは喜んでもらえたみたいだとほっとする。



「星、ちゃんとわかるか?」

「わかりますよ。

あれがおおいぬ座で、あの星が1等星のシリウス。この明るい三つの星を繋ぐと冬の第三角形になって……」


そう言って暗闇のなか神崎は天井を次々と指差す。言われた方を目で追ってみても、どの星かは検討もつかない。



「すごいな神崎は……」

「いえ、そんなことは……」

「俺はオリオン座くらいしかわからないよ」



そう呟くと、神崎は小さく笑った。


夏の日に観る、冬の星空。

三つ仲良く並んだ星を目印に、オリオン座をなぞる。



「三つ子みたいだな」

瞬く三つの星がなんとなく兄弟みたいに見えて、そう零す。


すると、


「……オリオンの三つ星の、一番明るい真ん中のあの星は、実はずっと遠くにあるんです」


神崎はそんな話をしてくれた。


「……遠くに?」


「はい。三つ並んでいるように見えて、ひとりだけ、ずっとずっと遠くにあるんです……。地球から1400光年も離れています」


「……あんなに、近くに見えるのに?」


思わず聞き返すと、神崎は少しだけ寂し気に頷いた。

1400光年という、その途方も無く遠い遠い宇宙の距離が、どうしようもないくらい寂しく思える。

胸の奥がほんの少しだけ痛かった。