月がとっても

◆◇◆



試験最終日は雨が降った。

テストが終わり、残りの午後は授業もなくそのまま休み。図書室に寄って読みたかった本を借りてから、寄り道せずに真っ直ぐ駅に向かう。


電車を待つ時、ふと向かい側のホームで見覚えのあるおさげ髪が目に入った。


(……神崎?)


俯いてベンチに座っている。
その姿が泣いているみたいに見えて、思わずホームの階段を駆け上がった。



「神崎」

反対側のホームに降りて、俯く横顔に声をかけると、びくりと肩を震わしてその子は顔を上げた。



「なつめ、せんぱい……」


やっぱり神崎だった。

泣いていたみたいな真っ赤な目をして、俺を見る。



「どうした」

「なんでも、ないです」

「なんでもない顔か?」


テストでなにか失敗したか?
どこか痛いのか?
友人となにかあったのか?

涙の理由をあれこれ考える
考えるけれど、答えは見つからない。

聞いてしまっては、今以上に傷つけてしまいそうだった。


「そのまま家帰るのか」

意地悪くそう言うと、神崎はまた俯いた。



「なぁ、寄り道してかないか」

「寄り道?」


神崎が顔を上げる。

俺はベンチ横の掲示板に目を向けた。
同じ線沿いにある科学館のポスターが貼られている。夏休み前のせいかプラネタリウムの宣伝が大きく書かれていた。



「好きだろ、こういうの」

言うと、神崎もポスターに目を向けた。

「……むかし、お兄ちゃんによく連れていってもらいました。」


そう言って神崎は懐かしそうに小さく笑った。