「帰るか」
「はい」
チェックし終えた貸し出しカードを片付け、戸締まりをして神崎と図書室を出た。
オレンジ色の太陽が西に傾いて、廊下を眩しいくらいに照らしている。
校内のスピーカーからはまだ下校の音楽が流れていている。
ビートルズのYesterday
何十年も昔の曲。
放課後のこれを聴く度に、この曲はいったいいつから下校の放送に使われるようになったのだろうかとよく考える。
きっと俺が入学するずっとずっと昔からあったのだろう……。
放送室には今の時代には馴染みのないカセットテープがたくさん置いてあったことを思い出して、今度何本か拝借しようかとこっそり考える。
隣を歩く神崎の足取りはとてもゆっくりで、俺もついそれに合わせてゆっくりとした歩幅で歩く。
一言も会話のないまま。
しかし不思議とそれを特に不快と感じることはなくて、むしろ心地良いとさえ思えてしまうのはどうしてだろう……
そんなことを思いながら、俺はオレンジ色の廊下に静かに響く音楽に耳を傾けた……。

