月がとっても


◆◇◆




「……この絵、好きだな」


朔の部屋にある一枚の絵を見て、そう呟いた。


時刻は深夜を回っていた。
慣れない布団のせいかなんとなく寝付けずにいて、朔の部屋にある描き掛けの絵をずっと眺めいた。


イーゼルに立てられたままのキャンバスには、窓から海を眺める女の子の後姿が描かれている。

オレンジ色の間接照明に照らされて、キャンバスに描かれた輪郭は少しぼやけて見えたけれど、とても良い絵だと思った。



「"窓辺の少女"の模写だよ」


一人言だと思っていた声に、そんな返事が返ってきた。

どうやら朔もまだ寝ていなかったらしい。


「窓辺の少女……?」

「うん。……スペインの、サルバドール・ダリの絵」

「あぁ、あの……」


教えられて、作者の顔を思い出す。
ヘンな髭の芸術家。




「こんな絵もあるんだな。変わった絵ばかりなイメージがあったけど」


「そうだね、これは初期の頃の作品だから……、モデルになったのは、ダリの妹の……」



眠たそうに、ぽつりぽつりと朔が話す。

ダリの妹……





「……アナ・マリアか?」


「そうそう。よく名前知ってるね」



「ロルカが好きなんだ」


「ロルカ……?」

朔が眠そうに聞き返す。


「スペインの詩人。

フェデリコ・ガルシア・ロルカ……、ダリとも親交があって、ダリの妹はロルカのこと好きだったんだ」


「そうなんだ……。

ふたりは、恋人同士だったの……?」


「いいや。

……ロルカはダリのことが好きだったって、なにかの本で読んだことがある」


「……え?それって、どういう意味……?」


「そのまんま。

いわゆる同性愛てやつ……」


「……そうなんだ。

ダリは?ダリはその人の気持ちに応えたの?」


「さぁな……」



「そっか、報われない恋をしていたんだね……」



そう言って朔は、のそりとベッドから起き上がった。