月がとっても



「ねぇ、望は?好きな子とかいる?」

「いないよ」

「……じゃあ、気になる子とか、仲のいい女の子とか」

「だからいないって」



しつこく訊いてくる朔にそう答えると、朔は「望らしいね」とまた笑う。


仲のいい女の子……と言われて、一瞬神崎を思い出した。けれど、朔に神崎のことは話せなかった。


神崎の兄のことがあるから……というのは建前で、本当は朔に知られたくなかったのかもしれない。そんな子どもじみた恥ずかしい独占欲。





「ねぇ、今度の休みうちに泊まりにきてよ」


話題を変えるように朔がそんなことを言い出した。



「母さんとお父さんが旅行で居ないんだ」

「朔の家に?」

「うん。ねぇ、いいでしょ?」


そう言ってベッドから伸びた手が俺の服を掴む、甘ったれなところは昔とまったく変わってないな。



「……もうすぐ期末テストがある」


「一緒に勉強すればいいじゃん!僕のとこの学校のほうが勉強進んでるから教えてあげられるよ!」

言いながら、朔がベッドから少し身を乗り出して俺の腕に抱きつくようにくっついてきた。


「ひっつくなよ、暑苦しい……、

わかった。いいよ、行くから腕離せ」


そう答えると「やったー!」と喜んで俺の腕を解放した。



「あとさ、夏休みに入ったら、亮佑や瑞樹とも一緒に遊ぼうよ」


「俺も一緒に?」


「うん!海とかプールとか!キャンプとか!」


そう言って朔は楽しそうに夏休みの予定をあれこれと勝手に立てる。

楽しそうなその表情を見ていたら嫌とは言えなくて、むしろこちらもなぜか嬉しく思えた。