月がとっても

◆◇◆




「やっぱりやめる」



入れ替わりをやめたいと朔に伝えたのは、その日の夜だった。この日もまた家に帰ると朔が居て、顔を合わせてたところで早々にそう言い切った。


「え、なんで?どうして?」


「嫌だから」



そう答えると、朔が不機嫌そうに口を尖らせた。


「なにそれ、昨日は良いって言ったじゃん。髪型だって変えたのに」

「……」


不満そうに吐き捨てる朔になにも言えなかった。
それでも、やっぱり嫌だった。


もうこれ以上自分を偽ったりするのが。それに、俺を昔からの友達のように接してくれたクラスメイトたちに嘘をつくのも……。



「あーあ、つまんないなー」

そう言って朔は諦めたようにベッドに寝転んだ。


「望に僕の友達知って欲しかったのに……」

「普通に合えばいいだろ」

「それじゃつまんないよ」


言いながら朔はベッドから手を伸ばし自分の荷物を手繰り寄せる。鞄のなかから取り出したのは、一冊のスケッチブックだった。

それをぺらぺらと無造作にめくると、花だとか動物だとかのスケッチが見えた。


「朔が描いたのか?」

「そうだよ」

「そういえば絵上手かったもんな」


昔から朔は器用な奴で、特に絵が上手かった。



「……これね、僕の親友」

そう言って開かれたページには、一組の男女が描かれていた。


「こっちの女の子が、雨宮瑞樹」

女の方を指して朔が言う。そして男の方を指してまた口を開く。


「こっちが、神崎亮佑」



朔の口から出た名前に、どきりと心臓が跳ねた。



……神崎 亮佑


神崎ってまさか、

神崎の……、