月がとっても

◆◇◆



「髪、濡れてます」

「さっきまでプール掃除してたからな」


プール掃除の後、渡り廊下で神崎と会った。神崎も教室移動の最中のようで、理科の教材を大事そうに抱えていた。



「髪、切ったんですね」

「ああ」


そう短く言葉を交わした後、神崎は小さく頭を下げ去って行った。良いも悪いもなにも言われなくて、少しだけつまらないなと思った。

神崎が歩いて行った方を振り返ると、同じように神崎もこちらを振り返った。


渡り廊下の端と端で目と目が合って、一瞬息が止まった。



神崎も振り返った俺を見て驚いた様な顔をした。そして、それからすぐ小さく笑った。


それはどこか困ったような笑み。

そっと前髪に指を差す。




「……前の方が、私は好きでした」



聞こえるか聞こえないかくらいに小さい声でそう言った。

その言葉に思わず笑ってしまいそうになる、



……ああ、もう敵わないな

本当に……。