月がとっても



「でも、浮気したら澪に言いつけるからね」

「なっ」


だから神崎とはそんなんじゃない、追いかけてそう言おうとすると「冗談よ」と黒沢にまた笑われた。



「……そう言う黒沢は?」

「え?」

「いないのか? 彼氏とか、好きな奴とか」

「いっ、いないわよ!」


お返しとばかりにわざと意地悪く聞いてみると、今度は黒沢の方が顔を赤くさせる。


「考えたこともないよ、だって私まだ中学生よ」


「やっぱり真面目だな、黒沢は。……いつか、黒沢に似合いの奴見つけたら紹介しようか?」

「もう。余計なお世話よ」


黒沢はそう言いながら、照れ隠しのように赤縁の眼鏡を掛け直した。


赤い髪にお揃いのような赤縁眼鏡。

赤色は、黒沢の色なのかな。


黒沢はさっき、”小学校のころ先生に髪のことでひどいこと言われた”と言っていた。それでも彼女は俺みたいに隠すことなく堂々としている。




「黒沢」


「なに?これ以上からかうのは……」


「違うって。 あの、」


黒沢の声を遮るようにして声を上げた。



「さっきの、ごめん。

俺、黒沢の赤い髪、綺麗だって思うよ」


「……ありがとう。お母さん譲りなの。とても気に入ってるんだ」




黒沢は誇らしそうに笑った。
眩しいくらいに。