月がとっても




「入れ替わりしようよ」

「は?」


2度目に朔が家にやって来たのは、7月のはじめのことだった。
朔はまた何の前触れもなくやって来て、帰宅して早々の俺の顔を見るなりそんなことを言い出した。


「入れ替わりって……」


荷物を床に置き、朔と向かい合うようにしてベットに腰掛ける。すると朔はにこにこと笑って身を乗り出すように体を俺に近づけた。


「昔よくやったじゃん?お互いになりすましてさー、学校行くとか面白そうじゃない?」

「はぁ?そんなことできるわけ……」


できるわけない。そう言いかけたところで、突然朔が俺の眼鏡を奪い取る。
視界が少しだけ明るくなった気がして思わず目を細める。


「……なんだよ」

突然の行動に不機嫌になる俺に対し、朔はいつものようにへらりと笑うだけ。

なんなんだこいつは……と思ったその時、視界が反転した。



ボスンと軋むベットの音。背中には柔らかい布団の感触。照明の光が眩しくて一瞬目を瞑る。



気付いた時には朔にベットの上に押し倒されていた。



「おいっ、朔っ」


なにするんだ突然。

そう言うより早く、朔の左手が俺の前髪をかきあげた。朔自身も、空いている方の右手で自分の前髪をかきあげる。


目が合うと朔はまたにこりと笑う。

「ね、まだそっくりだよね、僕たち」

同じ顔がそう言って笑う。


朔の言う通りだった。
輪郭を隠すものを無くせば、まるで鏡を見ているようだと錯覚しそうになるほど俺と朔は似ていた。