月がとっても



”座敷童”というのは笑うところかもしれないが、ここで笑ってしまっては彼女の機嫌をますます損ねてしまうだろう。

そう思って笑ってしまわないように唇を小さく噛んだ。



……しかし、なるほど。

確かに神崎のこの黒く長い髪は日本固有の幽霊像の様だと思う。


けれど俺が思ったのは、この空気のような存在感の薄さだった。


神崎澪は物静かな女の子だ。

顔立ちはとても整っているし、綺麗な黒髪に透き通るような白い肌。

1学年下で、背も少し低いのだけれど、神崎はとても落ち着いた大人びた表情をする子だ。


(自信なさそうににおどおどとしてなければの場合だけど……)


“美しい”という言葉がよく似合う。
そんな女の子。


しかし、誰も彼女のことをそんな風に褒め讃えたりはしていない。

神崎のことが綺麗だとか男子生徒に人気があるだとか、そういった場面を俺は見たことも聞いたこともない。


誰も彼女に気付かない。
地味とは少し違う。

しいて言うなら"幽霊"のようだと、そう思った。