月がとっても

◆◇◆


「昨日な、朔に会えたよ」

「さく?」


放課後の音楽室で神崎にギターを教える最中に、昨日の出来事を神崎に話した。
朔という名前に、神崎は不思議そうに手を止めた。


「弟。前に話した」

「え、あの、幸福の王子さまの?」

「そうそう」

「おめでとうございますっ!!」


飛び跳ねるような神崎の声が音楽室に響いた。

彼女のこんな大きな声は、はじめて聞いたかもしれない。それほど喜んでもらえたのかと嬉しく思う。



「さく、という字は、朔月の?」

「ああ。ベタだろ?」

「いいえ。そんなことは、」

「それでも、アメリカ人の母さんが一生懸命考えたんだ」

「はい。とても、素敵だと思います」

「お世辞はいいよ」

「本心ですから」


どこか擽ったそうに、幸せそうに笑うその表情に、かぁっと体中に熱が散ったような気がした。


目が、優しい。

まるで、大切なものを見るみたいな……そんな目をしていて。



それだけで、

なんだか泣きたいような苦しい気持ちになった。



「……神崎は、最近よく笑うようになったな」

「そ、そうですか?」


今度は神崎の頬が赤くなった。

そして彼女はそれを誤魔化すように少しだけ俯いて、ギターを鳴らした。


まだまだ不安定で頼りない。

そんな神崎の音が心地良い……。