月がとっても




「ねぇ望、……お父さん、怖くなかった?大丈夫だった?」

「いや、そんなことはなかったよ」


朔が不安そうに訊ねる。俺はすぐに首を横に振って否定した。

怖いことなんて一つもなかった。


そう。この今使っている部屋だって、昔父さんが使っていた子供部屋だ。

この部屋も、この部屋にある古いオーディオに、昔の漫画本、ギターだとか……すべて貰った。きっと父さんなりの気の使い方だったのかもしれない。

ギターや音楽のことをいろいろ教えてくれて、音楽は俺と父さんの唯一のコミュニケーションになった。

最初はおっかなく思えた父さんは思っていたより気さくで面白い人で、2人きりになれば自然と話すことは多くなった。



「そっか、よかった」

「……お前は?」

「僕?僕も今の生活は気に入ってるよ。母さんの料理は不味いけど」

「そうか。そういえば母さんの飯不味かったよな」

「うん。不味い」


そんな昔話を少しだけして、同じ顔を向け合ってまた笑った。



……時計の針が7時を指した頃。

朔は帰ると言って立ち上がった。



「父さんには会ってかないのか?」

「ううん。今日はいい。また今度。

ね、また来てもいいでしょ?」


「ああ。もちろん」


そう答えると、朔は嬉しそうに笑った。