父さんと母さんの離婚の理由は未だによくわからない。
あの時はまだ9歳だった。
ただ夜更けにいきなり父さんと母さんに俺と朔は起こされて、どちらに付いていくか決めろと言われた。朔は寝ぼけ半分で、2人の話をちゃんと理解出来てなかったと思う。
"父さんと母さんは離れて暮らすことにしたから、二人ともどちらについてくか決めなさい"
なにを言っているのかわからかったし、わかりたくなかった。
朔と離れるなんて。父さんと母さんと、どちらかと離れるなんて。
朔も俺も、
母さんが大好きだった。
よく笑う母さんが。
反対に、父さんのことは、好きなのか嫌いなのかもわからなかった。
父さんはとても無口な人で、笑った顔もあまり記憶にない。
仕事のせいもあってか、父さんは家に居ないことが多く、9年も親子をしていたのに父さんのことはあまり知らなかった。
だからか、少しだけ怖く思う時もあった。
(朔が父さんに付いていったら、朔はどうなるんだろう……)
そんな不安を子供心に抱いた。
だから、
俺が父さんに付いていくことにした。
絵本を置いて。
俺は朔の兄ちゃんだし。
朔は母さんにべったりの泣き虫だから。
隣で寝てしまった朔を残して、別れの言葉も言えないまま。
……そうして、夜明けとともに父さんに連れられて家を出た。
それから今に至るまで父さんの実家であるこの家で暮らしている。

