月がとっても



それに変わったのは見た目だけじゃない……。



「”つきもと”って、今の苗字か?」

「うん。お月様の下で、月下。今の僕は月下朔だよ」

「……そうか」



俺と同じ緑の眼が少しだけ寂し気に笑った。



「望の方のお母さんは綺麗な人だね、ちょっと怖いけど」


「は?」


「え?違うの?」


「ああ、沙織さんのことか?あの人は家政婦さんだよ」


「そうなんだー、靴揃えて上がらなかったからすごく怒られたよ」


朔の話に少し笑った。
沙織さんらしいなと思ったのと、変わったように思えた朔の性格が昔と変わっていないように思えて嬉しくなったから。


「……それより、」


(朔の方の父さんは…、)

そう訊こうとして、口を開いて、


「本当になにしに来たんだよ」

話題を変えるようにそう言ってしまった。訊きたかったけど、なんとなく訊けなかった。



朔もまたへらりと心を隠すように笑った。


「つれないなー。

これ、返しにきたんだよ」


言って渡されたのは、昔取り合いになって大喧嘩したあの絵本だった。


「こんなもののためにわざわざ?」

「こんなものって酷いなぁ。だって、望と最後にした喧嘩だったし、ちゃんとごめんねって謝れなかったから。

だって望、なにも言わずに出てったんだもん」




……そうだ。あの喧嘩をした夜、父さんと母さんは別れたんだ。

思い出すように、絵本の表紙をなぞる。表紙は少し破れていて、中のページは水で濡れたようにふやけていた。



(朔、泣いたのか……)


雫が落ちた跡が眼に入って、そんなことを思う。

朔は泣き虫だったから……。