月がとっても

◆◇◆



「これ、お土産」


水族館で買ったのは、イルカをモチーフにしたステンドの栞。

この透き通った濃い青色を一目見た瞬間なぜか神崎のことを思い出してしまい、気が付いたら買っていた。


「綺麗……、ありがとうございます」

弾んだ声と、嬉しそうに目を細める様子に、一応は喜んでくれたかと思って安心する。女の子になにか贈るなんてはじめてのことだったから。


「あの、ごめんさい、わたし……その、」

神崎が慌てたように言う。


「ああ、俺への土産?」

「すみません…」


「いや、別にいいって。去年行った所だし、それにお金持ってくの禁止だったろ?」

「はい……。でも、他の子はみんなこっそり持ってきてたみたいで……」

しゅんとなって神崎はそう零す。


確かに。教師の言いつけをそうきちんと守る奴の方が少ないだろう。

神崎は今どき珍しいくらい真面目だから……。





その放課後。いつもなら真っ直ぐ駅へ向かうところを、今日の神崎は「寄り道していきませんか」と言った。


真面目な神崎にしては珍しい。というか、こんなこと神崎が言い出すのは初めてな気がする。

向かった先は、駅の裏にある小さな駄菓子屋だった。商店街がある大きな通りを右にそれると、車が通れないくらいの狭い道がある。

その狭い小道を少し歩いていくと、ひっそりと小さな駄菓子屋が開かれていた。



「ここのたい焼きがとても美味しいんです」

「たいやき?」


この夏のはじめの季節にしては珍しい。


「夏目先輩は、たい焼きお好きですか?」

「いや、好きだよ」

「よかった」


ホッとしたように神崎が小さく笑う。

ああ、これはもしかして……




「……でも、今日は俺金持ってないな」


「ご、ご馳走します! あの、お土産のお礼に……!」


必死になってそう言う姿が可愛い。

顔を見て笑ってしまわないように少し上を向いた。