月がとっても





「神崎は幽霊みたいだな」


一度だけ。生身の人間を幽霊のようだと思ったことがある。



「幽霊……ですか」

「そう、幽霊」


放課後の図書委員の当番の最中。

カウンターで本の貸し出し表をチェックする仕事をしながら神崎とそんな話をした。


幽霊と言われた少女…神崎澪は、些か困ったような顔をする。


「夏目先輩は……」


指先で貸し出しカードを弄びながら神崎が俯きながら言葉を発する。

聞こえるか聞こえないかくらいの声の大きさだ。ここが図書室で、壁には『図書室ではお静かに』と書かれているからだろうか。そう思うほどに神崎の声は本当に小さい。


どうにか聞き取ってやろうと耳を傾けると、

「夏目先輩は失礼なひとですね」という言葉が聞こえた。


ぽつりと零すように神崎が言ったのだ。



「ごめん、怒ったか?」

「いいえ」


短く首を振って神崎は唇を微かにとがらせる。

やはり怒っているだろうなとは思った。



「よく言われます。

日本人形みたいって。座敷童とか……」