月がとっても



「先輩、なにを見ているんですか」

部屋に戻って来た神崎の声に顔を上げる。小さく手招きすると、神崎は俺の隣に静かに座った。


「これ、俺と弟」

写真に写っているのは、同じ顔が2つ。幼い日の俺と弟の姿だった。


「あ、幸福の王子の」

手にしていた写真を神崎に見せると、神崎は驚いた風に小さく呟いた。


そのまま写真を眺めながら、双子の弟のことを話した。


外見だけはそっくりな弟。甘ったれで泣き虫で、優しいやつだった。

弟とは、幼い頃に両親が離婚したきり会っていない。俺は父親に、あいつは母親にそれぞれ引き取られたから今はどこでなにしているのかさえわからない。



「神崎は、兄弟いるのか?」

「兄がいます」


問いかけると、意外な答えが返ってきた。てっきりひとりっ子だと思っていたから。

そのまま神崎は自分の兄について話してくれた。

神崎の兄は俺と同じ年で、随分頭が良いらしい。今は一緒の学校ではなく私立の名門校に通っているとか。

神崎とはまったく正反対なのだとか。


兄の話をする神崎はとても嬉しそうで、その兄を随分慕っているのがわかる。しかし、その反面で……言葉の節々で神崎は不安げに瞳を揺らすのだ。

そう言えば、以前図書室で俺が弟の話をしたときも少しだけ様子が変だった。




「神崎は、兄貴のことが好きじゃないのか?」

そう思ったままに問いかけると、彼女の大きな瞳が一際大きく揺れる。じゅんと膜が張ったように涙がその瞳を包んだ。

しまった。泣かせたいわけじゃなかったのに。聞くべきではなかったとすぐに後悔した。


「……違います。お兄ちゃんのことはすごく好きです。」


涙を零さないように、神崎がそう話した。声は微かに震えていた。


「ただ、私は私が嫌いで、

私なんかがお兄ちゃんの妹でいていいのかって……そう考えてしまうんです」