月がとっても

◆◇◆



「箸の持ち方、綺麗ですね」

昼食の最中に、妙なところを神崎に褒められた。


綺麗と言われて、否定すればいいのか喜んでいいのかどうかよくわからなくて、口のなかのものを飲み込むだけに抑えた。


「神崎さん、どう?お口に合うかしら」

「はい、とっても美味しいです」

「それはよかった。ねぇ、一日中家に籠って退屈じゃあないかしら?」

「いいえ、楽しいです。とても」

動揺する俺をよそに、沙織さんと神崎は何事もないように会話をしている。

和気あいあいと会話をする2人を横目に俺は飯をかき込んだ。


「ごちそうさま。先部屋に戻ってるから」


それだけ言って食器を下げる。

神崎の顔を見ないようにして廊下に出ると、ようやく一息つけた。



(箸の持ち方、綺麗ですね)


先程言われた言葉を思い出して、無性に恥ずかしいようなむず痒いような感覚に襲われる。自分の部屋に入ると、そのままずるずるとへたり込んだ。


……綺麗と言われた箸の持ち方は、片親だからと馬鹿にされないために沙織さんに必要異常に躾られたせいだろう。

箸の持ち方に椀の持ち方、いただきますとごちそうさまは必要最低限の食事の作法だと厳しく躾けられたせいか食事の前と後は必ず手を合わせるようになっていた。

昔は行儀が悪いと容赦なく飯抜きにされたこともある。ただのお手伝いさんなのに、沙織さんは本当の母親以上に厳しい人だった。


実の母親はというと、よくも悪くもアメリカ人で、日本の食事の作法なんて無いようなものだったのを思い出す。



……そうして昔のことを考えて、


「……あいつは、今でも変わってないのかな」



思い出すのは、

自分の片割れのことだった……。