月がとっても


取りつく島もなし、神崎はトラ目のギターを買った。

買ったばかりのギターを小さな肩に担ぐ姿は頼りなくもあったけれど、不思議とよく似合っている。


帰りの電車は祝日であるせいか少し混んでいた。

ギターを傷つけてしまわないように、人にぶつけてしまわないようにと、神崎は混み合う車内で緊張したように体を固くしている。

「持つの、代わろうか」と申し出てみると、「自分で持ちたいです」と神崎は頑にそう言う。神崎は大人しいのに結構頑固なところがある。


「じゃあ、辛くなったら言えよ」

目の前にある頭をぽんと撫でると、子供扱いされていると思ったのか神崎が少しだけ不満そうに唇を尖らせた。



別れ際、

「夏目先輩、今日はありがとうございました」

「あぁ」

「……あのっ、」

神崎の髪が揺れた。


「どうした?」

「あの、これっ」

言ったまま勢いよく手を差し出されて、こちらも反射的に手を出した。

ころんと、手のひらに落ちてきたのはギターのピックだった。


鮮やかな緑色。

真ん中には、金色の王冠が描かれている……。



「これ、」

「あの、夏目先輩みたいだなって……

幸福のおうじさま……です……」


たどたどしくて、語尾は弱々しくて、それでも言いたいことは伝わった。


「貰っていいのか」

訊いてみると、返事代わりに神崎が頷く。



「ありがとう」


そう伝えると、ほっとしたように神崎は小さく笑った。