月がとっても


少し遠くの、大きく栄えた街まで地下鉄で移動する。

駅前にあるビルの3階にある楽器屋。


所狭しに並べられた楽器のなかから、神崎に似合いのギターを探す。


「欲しいのとかあるか?」と訪ねると、困った様子で「よくわからないです」と返された。



それもそうか、と納得する。

1ヶ月前まで彼女はギターにも触ったことなんてなかったし、今だって音楽室にあるギターか俺のギターしか知らないのだ。

どうしようかと視線を彷徨わせると、綺麗なトラ目の入ったアコースティックギターが目を引いた。



「これなんてどうだ?」



「……っ、」



何気なしに言ってみると、神崎が一瞬息を止めたような気がした。

それから少しギターを眺め、恐る恐る手を伸ばした。
弦に指を滑らせるとキュッと小さく鳴る。



「これっ、私これにします!」

そう言って神崎が顔を上げた。
高揚したように頬が赤い。


「いいのか?他にも見て決めた方が……」

自分で勧めたくせに、いざこれに決められそうになるとなぜか遠慮してしまうのはどうしてか。

そんな俺の言葉に神崎は首を横に振る。


「色がとっても綺麗です」