月がとっても

◆◇◆


その翌日も、

俺は神崎と一緒にいた。



今度は約束していた神崎のギターを一緒に見に行くため。

昨日と違い、今日は神崎が駅で俺を待っていた。


「悪い、待たせたか」

「いいえ、約束の時間ぴったりです。今日はよろしくお願いします」


神崎がそう言って小さく頭を下げると、横で二つに結ってある彼女の髪が揺れた。




「珍しいな」

「え?」

「髪、結んでいるの」


駅の改札を潜り、地下鉄のホームへ降りて電車を待ちながらそんな話をした。

俺が言うと、「今日は暑くなるそうですから」と神崎が答えた。


「そうか」

小さく頷く。
確かに今日は、昨日以上に暑い気がする。




(似合っている)

その、おさげ髮。


そう言おうとして、

言いかけたと同時に、地下のホームいっぱいに騒音が響いた。

電車が来ると告げるアナウンスと、電車がやって来る音が反響する。地下に風が吹く。

そうして音にかき消され、会話は途切れてしまう。

電車のなかでもいろいろ話はしたけれど、結局その言葉は言えず終いだった。