月がとっても



家に上がり、自分の部屋まで神崎を連れて歩く。板張りの廊下は歩く度にぎしぎしと軋む。

軋む廊下を俺はいつものことと気にせず歩くが、後ろを歩く神崎はなるべく音を立てないように静かについてきた。ひょこひょこと歩く様子がなんだか面白い。


……部屋に入っても、尚も緊張しているのか神崎は行儀よく床に正座して座った。


「脚、崩せ。そんな行儀よくしてたらギター弾けないだろ」

そう言うと、ようやく神崎は少しだけ脚を崩して緊張を解いたようだった。


自分のギターは神崎に貸して、俺は親父から拝借したギターを抱えて神崎の目の前に腰を下ろした。



そうして、放課後の音楽室でいつもしていたようにギターを教える。


たまに自分でも弾いてみたり少しだけ歌ってみたり……ただそれだけのことが、とても楽しかった。

途中、沙織さんが冷たい麦茶を持ってきてくれたけれど、それもすぐに机の上に置き去りになった。



夏が立つ暑さも忘れるほどに、

2人して夢中になってただひたすらにギターに向き合った……。