月がとっても



休みが始まってすぐ、神崎はうちにやってきた。学校以外で神崎と会うのは、これが初めてのことだった。

慣れない駅の改札できょろきょろと不安そうにあたりを見渡す神崎に声を掛け、家までの道順を案内する。

自分が普段使っている道を神崎と一緒に歩くのはどうにも不思議な心地がした。


駅から少し歩き、新しく立てられた住宅が並ぶ通りを抜け、その先の隅にぽつんと俺の家が建っている。


屋敷も門も今どき珍しい木造に、瓦屋根。

良く言えば、純和風の日本家屋。



悪く言えば……



「ボロいだろ」


「いいえ、そんなっ!

とても素敵です。まるで明治の小説に出てきそうな……」


そう言って神崎は小さく手を叩く。
喜んでくれているのか、その言葉は褒め言葉なのか、どちらもよくわからない。



「おかえりなさい、望さん。

まぁ可愛らしいお嬢さんだこと」



出迎えた家政婦の沙織さんは、神崎をいたく歓迎した。

きちんと挨拶が出来るところとか、靴を揃えて家に上がるとか、そういった彼女の真面目な姿が気に入られたのだろう。

沙織さんは行儀には厳しい人だから。