月がとっても

◆◇◆




帰る頃には日が沈みかけていて、空は燃えるような赤いオレンジ色をしていた。

赤く染まった駅までの道を神崎と並んで歩く。


赤信号に立ち止ると、神崎が静かに口を開いた。


「……さっき…」

「…?」


目の前を通り過ぎて行く車の雑音が煩い。

それでも神崎の小さい声は不思議と俺の耳によく届いた。


「さっきの王子様、先輩に似ていましたね」

「はぁ?」

「優しいところとか、

綺麗な瞳がとても……」


「……っ」


まっすぐ見つめられて、気恥ずかしくなって視線を逸らす。



横断歩道の信号機が赤から青に変わる。

青に変わった信号機が機械的に唄い出した。


故郷の空か。



それに合わせて、思わず歌詞を紡ぐ…


「夕空晴れて秋風吹き

 月影落ちて鈴虫鳴く

 思へば遠し故郷の空



 ああ、我が父母

 いかにおはす……」