昔のことを思い出した。
そしてそのまま、ぽつりぽつりと昔話を神崎に話していた。
「この絵本な、弟と取り合いになったことがある」
「おとうと?」
「あぁ、双子の弟。
双子だったからかな……、考える事とか感じる事とか色々似ていて。それで、なにがきっかけだったか忘れたけど、絵本の取り合いになったんだ。
ガキだからさお互い譲らなくて、弟なんか大泣きして……」
神崎が小さく笑う。
「まぁ結局、俺が譲ったんだけどな。俺、お兄ちゃんだし……」
そこまで話すと、神崎が微かに顔を曇らせた。なにか気に触ることを言ってしまったのだろうか。
「可愛い弟さんですね……、
先輩、そろそろ下校時刻ですね。もう帰りましょう」
神崎は何事もないようにそう言い、絵本を棚へと戻した。
その後姿は、どうしてか少しだけ寂しそうに見えた。

